「うつ」と自立神経失調症
もしあなたの周囲の人が「自律神経失調症」という診断を精神科、心療内科以外で受けたら、それは要注意です。
その理由はふたつあります。
ひとつは、「自律神経失調症」という病名は実は存在しないからです。「自律神経失調症」は、日本でしか通用しません。
内科などで「自律神経失調症」と診断される場合のほとんどが「原因不明の身体症状」を訴えていると見なされているのと同じです。
日本では「自律神経失調症」が確立した病名のように扱われて、「自律神経失調症」に関する啓発書がたくさん出版されていますが、正確にいえばそれは本来、間違っているのです。
「自律神経失調症」は、厳密にいえば「なんらかの疾患に伴う自律神経症状」と言い換えることが可能です。
もうひとつの注意点は、そこにしばしば「うつ」が隠されている可能性があるという点です。
原因不明の身体症状を訴え、内科的な検査によって器質病変が見出されないときには、一般の内科医は「自律神経失調症」という診断を下しがちです。
しかし、「自律神経失調症」という病名を付けられて安心してはいけません。
そのときに、自律神経とはいったいどういうもので、どういう働きをしているのかを説明してくれる名医はまずいないと思います。
「自律神経失調症」は病名ではなく、ただわけのわからない訴えに対して、除外診断として、あるいはゴミ箱的な病名として付けられているという印象を受けます。
その一方、この「原因不明の身体症状」を訴える患者さんが非常に多いのはよく知られていて、総合病院にはとくにたくさんの患者さんがいると考えられます。
総合病院の精神科を受診する患者さんの6人にひとりは「原因不明の身体症状」を訴えているという報告もあるそうです。
しかも、原因不明の身体症状を訴える患者さんの半数以上が「うつ」的な側面を持っていました。
「原因不明の身体症状」を訴える患者さんは、精神医学では「身体表現性障害」と呼ばれています。
そして「身体表現性障害」と「うつ」の合併が非常に多く認められるのです。
「身体表現性障害」は、その患者さんの多きにもかかわらずほとんど知られておらず、しかもその昔しみは強烈で、症状による苦しみと周囲に理解してもらえない苦しみをあわせ持っています。
詳細はここでは述べませんが、個人的には、今後、広く一般に知られるようになることを願っております。
先ほど述べたように、「身体表現性障害」と「うつ」はしばしば共存します。つまり「原因不明の身体症状」を訴え、「自律神経失調症」という診断を受けた人の多くが実は「うつ」であり、やすやすと「うつ」が見逃されてしまうのです。
そして「身体症状を前景とするうつ病」、あるいは「身体症状で精神症状がおおわれたうつ病」は、「仮面うつ病」と呼ばれることがあります。
言葉どおりに身体症状という仮面をかぶった「うつ病」ということです。うつ病には自律神経症状が必ず伴います。
詳しく話を患者さんに聞けばほとんどなんらかの抑うつ、不安などの精神症状を認めます。したがって、「仮面うつ病」はほとんど存在しないでしょう。
なぜなら「仮面うつ病」といっても実態は「うつ病」であり、それは聞き取り方が甘いか、患者さんが頑として精神症状を認めないかのいずれかだと思うのです。
よく「内科で自律神経失調症といわれた」とか「うつ病と自律神経失調症とはなにが違うのか」という疑問を、医師は患者に尋ねられるそうです。これに対する回答は「うつには自律神経症状はつきものであり、自律神経失調症は病名ではない」と答えることにしています。
「うつ」に伴う自律神経症状としては、全身倦怠感、疲労感、不眠(とくに中間覚醒、睡眠障害、早朝覚醒)、食欲不振(味がわからないというものが多い)、体重減少、吐き気、腹部不快感、胃の膨満感、頭痛、頭重感、口の渇き、のどの違和感、めまい、ふらつき、肩こり、背中・腰・関節の痛み、手足のしびれ、冷感、動悸、胸部圧迫感、呼吸困難感、便秘、下痢、頻尿、排尿困難、性欲減退などがあります。
たしかにこれだけ見れば、私たちの誰もが疲れているときにはこうなると考えるでしょう。
しかし「うつ」の人の自律神経症状は、私たちよりも症状を深刻に考えすぎたり、苦しさ・辛さの度合いが、その人の生活全般に障害を及ぼしていたり、非現実的なほどに症状にこだわったりするのです。すなわち「自律神経失調症」といわれたときは、要注意なのです。
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